Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

真の名前について1

魔術や呪術の世界において、名前は非常に重要な意味を持つ。
古代エジプトの太陽神ラーとイシス女神の神話にあるように、あるモノの『真の名前』が判れば、それが神であろうとも呪術的に支配する事が可能になる、と言われている。
古代エジプトケルト人などは、他人には決して知らせない『真の名前』を持っていた。

では、あるモノを名前を付けるという事には何か意味があるのだろうか?

言語学者ソシュールの説によれば、殆どのモノの名前そのものを表す文字や音(シーフェ)と名前が付けられたモノ(シニフィエ)との間には殆ど因果関係は無いが、名前が意味するもの(シニフィアン)とシニフィエの間には流動的であるが意味の上での繋がりが存在する*1
例えば「ゴキブリ」という音とその名前で呼ばれている昆虫との間には、日本人がそう呼んでいるという以外の関係は存在しない*2。しかし、その元々の語源である「御器かぶり」という名前は「食器や灯油の器を舐めに行く」というこの虫の性質と深く結びついており、「ゴキブリ」よりはシニフィアンに近い。
そして仮にこの虫の事を知らない人が居たとしても、「御器かぶり」という名前から「食器や灯油の器を舐めに行く」という性質を知るができれば、ゴキブリホイホイの様な罠でこの虫を退治する事が可能になる。
即ち「御器かぶり」というシニフィアンをこの虫と関連付ける事により、この虫に対して大きな影響を及ぼし得る情報を伝達・記録する事が可能になるのである。

このように考えると、真の名前とは、シーフォではなくシニフィアンに相当するもの、即ち「あるモノの性質を適切な言葉で表現したもの」という事が言えるのではないだろうか?

この「あるモノの性質を適切な言葉で表現したもの」と魔術・呪術との関係については次回に述べよう。

*1:Socius_記号論的解読−−シニフィエシニフィアン(自省式社会学感覚:56):http://archive.honya.co.jp/contents/knomura/lec/lec56.html

*2:ゴキブリ秘宝館 雑記;(ゴキ画像が嫌いな人は注意!):http://members.at.infoseek.co.jp/dentan/other/roach_chat.html