Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

萌え魔術−理論と実践(理論編:後編)

この主観的精神エネルギーを以後『萌エネルギー』と呼ぼう。
まだ文明が発達していなかった頃、人間は生き残る為には集団として群れなければ生きていけなかった。
古の部族の神話や宗教およびそれに付随した掟といった共通の思考の枠組みは、この萌エネルギーが生じる正のループを団結と生存、そして種族の繁栄の方向に向けるように規定するものであった。
やがて文明が発達し生産力に余裕が出来ると、古の掟は社会の発展と共に次第に姿を変えながら徐々にその意味を失っていった。そして現在、生産力に余裕のある先進各国では、個人の自由を尊重する流れの一方で、地域社会や家族といった個と個を結びつけていた絆は徐々に崩壊しつつある。
それに伴い、嘗て神話や宗教或いはその代替物としての思想が占めていた部分は個人の主観と思考に次第に置き換わり、生存と種族の繁栄の為に向けられていた萌エネルギーが次第に個々の興味の赴く方向に向けられるようになるのは必然といえるだろう*1。また多くの人にとって主観を最も揺さぶられるのは恋愛感情である為、個人の恋愛又はそれに類する感情がこの座を占めるケースが多くなるのもまた必然と言えるだろう*2
結局のところ『萌え』とは古来の宗教に代わる極めて個人的な信仰なのである。そして『萌え』の対象物は多くの場合、古来の宗教の神々と同じように、様々なメディアの上で偶像化や擬人化をされる*3
古くから『小姓』や『妹』の文化を持ち一神教文化の縛りの無い日本では、恋愛感情と保護本能の対象に成りやすい少年・少女が具体的な恋愛の対象を持たないものにとっての理想的偶像となるのはそれほど不思議な事ではない*4。また、古の社会ではメディアを作るコストが高かったので、偶像は宗教施設のような共同の場所か金持ちの家の中、或いは訓練された宗教家や神秘家の想像力の中でしか存在を許されていなかった。ところが生産性の向上した現代日本の社会では、個人が安価に様々なメディアを入手・加工できる為、個人の趣向に即した偶像が比較的簡単に制作・入手できるのである。よって様々なメディアに少年・少女タイプの萌えキャラが氾濫する今日の日本は、八百万の神が住まう国として至極当然の道を歩んでいるとも言えるだろう*5
ところで、古代エジプト*6の宗教は魔術の大きな源流の一つであるが、多神教エジプト文明では多くの神々の像や絵が作られ、それらと緊密に結びついた象形文字ヒエログリフ*7)が描かれていた。そしてヒエログリフはその神話的存在との関係と象徴性故に、魔術の道具として用いられた。
現代日本に於ける萌えキャラを含めた漫画やアニメのキャラクター、及びそれに付随した『猫耳』などの多くの漫画的記号や萌え要素は、未整理で語彙が大幅に偏っている嫌いはあるが、ヒエログリフのような萌エネルギーと結びついた象徴文字大系と見なす事も可能ではないだろうか?いや寧ろ、所謂オタク的趣味の持ち主にとっては既存の魔術的象徴大系などよりも遙かに強力な魔術的効果を持つのではないだろうか?
以上の議論に基づいて、次の実践編では萌えキャラを用いて萌エネルギーを制御する為の魔術実践上のコツについての試論を述べよう。
(実践編に続く)

*1:この過程については東浩之氏が『動物化するポストモダン』で述べている。

*2:この文章を書くにあたり、しろはた本田透氏の『人は何故萌えるのか』に大変インスパイアされた事を記しておく。

*3:聖書によれば「人間は神の似姿」なのであるが、寧ろ人間の精神から生じたものであるが故に、神のイメージは擬人化された偶像となりやすいのである。勿論、神のイメージとその元になった森羅万象とを同じものと思ってはいけない。例えば、びんちょうタンのお友達のれんタンこちらのページを参照)の姿は最近流行の逝き方の影響でヘカテっぽく擬人化されているが、これは最近のニュースを知る我々のイメージの具現化であって、練炭そのものが持つ性質とはあまり関わりが無い。

*4:勿論、人間の精神は多様であるから、少年・少女以外の存在や家族を『萌え』の対象にする事は別に不思議でも何でもない。

*5:ただし、気を付けるべきは『信仰』とは信じる当人に以外にとって正しいモノであるとは限らない、という事である。性風俗の世界にもカリスマは居るが、カリスマだからといって社会の中で尊敬を集める存在となる訳ではない。

*6:エジプト文明は世界で始めて猫をペット化した文明(こちらを参照の事)であり、バステト神(元々は雌ライオンだが)を崇める猫萌え文化発祥の地でもある。その名残かどうかは判らないが、洋の東西を問わず魔術関係者の家に猫が存在する確率はやたら高いらしい。

*7:http://www.geocities.jp/snntitn/ScriptsHieroglyphs.html