Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

神のアップデート

もしもビル・ゲイツが「バグとセキュリティホールの無い完全なMS-Windowsは完成しているが、それが万が一違法コピーされると正規ユーザの皆さんを損させたり著作権侵害の犯罪に巻き込む危険がある。そこで敢えて不完全なバージョンをリリースし、何年かかけて正規ユーザのOSのみ順次アップデートしていく事で完成型に近づけていくようにしたい。」などと発言すればWindowsユーザからは「ふざけるな!早く完成版を出せ!!!」と囂々たる非難の声が挙がるだろう*1
完璧なものが既に出来上がっているのなら何故今ここに存在しないのか?それは消費者として持つ当然の疑問である。
それに対して「いやー、実はソースコードを無くしちゃったんで、今リリースしてる不完全なプログラムを分析して再構築していくしか無いんですよ。」という回答が返ってこようものなら、「御社のソース管理はどうなっているのか?!いや、お前等ホントに企業なのかよ!!」という怒号が世界中で聞かれるだろう。ましてや「金庫の鍵無くしますた」とか「暗号化のパスワードを忘れてしまったんで解読できないんです」なんて返事が返って来ようものなら社会人失格どころか禁治産者の烙印を押されかねない。
ところが、宗教や神秘学の世界ではそうではない。完璧なものが有るはずなのに何処へいったの?という話ばかり。
例えば、「完全者たる神の作りし世界が何故かくも不完全なのか?」という疑問は太古の昔から数え切れない位多くの人々が口にしてきた疑問だ。それに対する宗教側の回答は・・・曰く「創造神が世界を作り終えて隠居した後に悪神の跋扈する世界になったから。」曰く「神の作った世界に悪魔が悪戯したから。」曰く「最初の男女が悪魔にそそのかされて神の禁を破ったから。」曰く、・・・曰く、曰く、曰く・・・曰く「でも私たちの神様は完璧で素晴らしいので敬わないと罰が当たります。」・・・ホントかよ?!
或いは、何故素晴らしい秘法があるのにその威力を確認できないのか?については、曰く「神が封印しましたのでお見せできません。」曰く「戦火で失伝しました。」曰く「選ばれた人にだけ判るのですが今は居ないんです。」曰く、・・・曰く、曰く、曰く・・・曰く「でも素晴らしい秘法は本当に在るので是非ウチに入門して修行するんだ。」・・・お断りだ!!!
・・・まるで怠け者の小学生が夏休みの後に学校で先生に渋々答えるような言い訳ばかり。「他者(ヒト)の所為ばかりにしてはダメ!」とお母さんや小学校の先生に叱られるよ。*2
この点に於いて最早開き直っているとしか思えないのが、西洋魔術の基本たるカバラである。神様からモーゼが受け取った筈の秘伝の体系が何故時代を経て度々大幅変更されるのか?盲人のイサック、アブラフィア、デ・レオン、コルベドロ、ルーリア、その他多くのカバラの歴史に残る偉大なラビ達は皆、それ以前のカバラの体系を大幅に変えてしまうような『真理』を『発見』し、Windowsが3.1→95→98→ME→XPとバージョンアップするが如く、カバラの大幅バージョンアップを行ってきた。*3
だが彼らは単なる嘘つきや盲信者ではない。彼らは自らと世界そして『神』との関係について、自らが知りうる限りの先人の智慧に基づいて一生をかけて真剣に追求し、その結果を先人達が同様に積み上げた土台の上に載せてきたのである*4。そしてその営みは今日のカバリスト達にも引き継がれている*5
最初から完璧なものは、逆に言えば発展の余地が無い。だが、MS-WindowsLinuxMacOSがコンピュータ関連技術の発達を取り入れながら進歩していくように、カバラも先人の、或いは現在の人々の成果を取り入れながら進化していくのだ。
そして、もしもカバラが本当に神と世界と人との関係を表したモノならば、人間の認識や智慧の進歩は、その関係を変化させる事によって『神』自身をもアップデートするのではないだろうか?
知恵の木の実を食べたアダムとイブは単に楽園を追放されたのではなく、小さな『完全』を捨てて、彼らの試練が『神』自身の試練となるべく進化への道を歩み始めたのかもしれない。そしてその道を引き続き我々現代の人間が歩んでいるのではなかろうか。

*1:スティーブ・ジョブズMacOSについて同様に発言した場合は・・・ひょっとすると納得する人も出るかもしれない。

*2:立証責任は主張する側にあるのであって被疑者が無実の証拠を出さねば認められないのは魔女裁判ですよ・・・M党のナガタせんせい。

*3:例えば、今日ではカバラ=生命の木というイメージが流布しているが『ゾハール』が成立する時期までその図像はカバラの歴史には登場しない。参考URL:http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Eoccultyo/kabbara2.htm

*4:時には邪魔な先人の業績を破壊する事もあるが・・・

*5:この、何代にも渡って成果を積み上げていく意志と行為こそが真の『伝統』、すなわちカバラなのかもしれない。