Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

生命の木の構造について

時々魔術以外の神秘学の人がカバラの生命の木とセフィロトを他の体系の色々なモノに当てはめようとしているのを見る*1
しかし、それほど沢山見たわけではないのだけれど、私が見た限りでは生命の木の構造の基本的理解に基づいた対応をしているものは無かった。ただ「形が○○に似ている」とか「数が10個だから」とか、その程度の理由でやっているとしか思えないものばかり*2
先日のエントリに書いたように怪しい理由であっても「瓢箪から駒」という可能性はあるので全否定はしないが、カバラの奥義を学びました、みたいな感じで発表しない方が良いんじゃないかと思う今日この頃。
そんな訳で、ちょっと前に2ちゃんに書き込んだ文章を改編して生命の木の構造についてちょっと解説してみようと思う。
生命の木は、物事の成り立ちを、その背景・要因も含めて示すために、神の創造の過程に準えて図示したものである。Path of Lightnig BoltとかFlaming Swordと呼ばれる、稲妻が生命の木の最上段のケテルから各セフィロトを伝って下のマルクトまで降りてくる図を見たことのある人は多いと思うが、あれは当に無から神の意により生じたものが物質世界に顕現する過程を示したものなのだ。これが『木』であるのは、最上段のケテルという「根」から生えたものが最終的にマルクトという『実』を結ぶからなのである。つまり、生命の木には上下という概念がある、という事は基本として忘れてはならないのだ。
この創造神を上とし現実の結果を下とする考え方は、現代的に解釈すれば、物事が人間の頭の中で考えられてから実現に至るまでの過程を図示したものと考える事が出来る。従ってこの生命の木という図形は、今の物事の成り立ちがどのような考え方や背景によって成り立っているのかを分析する為の道具と考える事も出来る。
木の構造をもう少し細かく見てみよう。
カバラにおいては、物事が人間の頭の中で考えられてから実現に至るまでの過程を『上』から

  1. アツィルト  概念・コンセプト
  2. ブリアー   計画・設計
  3. イェツィラー 作成・実装
  4. アッシャー  結果・現実

の四階層に分ける*3。この四階層をビルの建設を例にとって考えてみよう。
会社の社長が『会社の繁栄の象徴として自社ビルを建てよう。」と考え、重役会議で了解を取るのがアツィルトだ。その方針に従って建築家や建築会社を招き、予算と相談しながらビルの設計と建築計画を決めるのがブリアー、そして計画に沿って実際に労働力を使って建築していく段階がイエツィラーである。その結果として完成したビルがアッシャーとなる。
次に、これら四階層の、それぞれの段階での対立する要素を主体的・積極的要素と副次的・消極的要素に分けてみよう。
ビルの例で言えば、社長の「会社の繁栄を世に示したい」という意向は重役達の理解がなければ承認されない。そして良いビルを作りたいという建築家の意欲は予算の額や技術的限界による制限を受け、出来上がる計画は妥協の産物となる。実際の建築作業では例えば、インテリア・デザイナーのセンスだけでなく職人の腕前が内装の出来を左右する。そのような妥協の最終的な結果が建築されたビルになるのである。
これらの対立構造は生命の木の中では

  1. アツィルト・・・ケテル・コクマー・ビナー
  2. ブリアー・・・・ケセド・ゲブラー・ティファレット
  3. イェツィラー・・・ネツァク・ホド・イエソド

の三つ組で表現され、それらの最終的な結果として「アッシャー=マルクト」が存在している、という構図になっている*4
ティファレット、イエソド、マルクトが下向きの三角形の頂点なのは、それらが対立するモノ同士のバランス(或いは妥協)によって生じるものであり、ケテル(コンセプト)のように最初に存在するものではないからである。
頭の中のコンセプトをどう具現化するか、という方法論はカバラに限らず沢山あるが、現在日本語で簡単に勉強できてしかもカバラのように各段階がきちんと分かれているものには、例えばコンピュータのプログラム開発の方法論がある。
カバラと割と似ているのはウォーター・フォール・モデルだが、その各段階がきちんと理解できていればカバラの四階層の関係もより具体的に理解できるだろう*5。これらの方法を用いれば、現実に何か不都合があったときに、各段階に現実の事象を当てはめていく事によって、どの階層に問題があったのかを分析する事が出来る*6
魔術志願者が生命の木に何かをコレスポンディングする際には、単に個々の要素をセフィロトに配分するだけでなく、上記のような生命の木の構造を考えた上で、各要素の相関についても考慮しなけれならない。さもなければ、折角コレスポンディングされた要素が有機的な『木』とならずに、単なる整理箱に入れられた無機質なデータの集合に成り下がってしまうだろう。

*1:曼荼羅とかエ○○○○ムとか・・・

*2:とはいえ、所謂『魔術的カバラ』の本も、どちらかというと応用の話である『777』のような象徴の整理が頭にあって書いているような本が多いのであまり大差はないかもしれない。魔術の立場から生命の木の『流出』過程を判りやすく解説している本にはW.G.グレイの『The Ladder of Lights』があるが、浅学な私は他に思いつかない。魔術じゃなければハレヴィの『カバラ入門』も良い、との指摘も貰ったが、何故魔術ではブリアーが大天使の階層でイエツィラーが天使の階層なのかが理解し辛いと思う。それは物理的次元に近づくにつれて物理的制約が増える為に仕事の内容が個性を反映させ易いものから没個性的な内容に変わる事を示しているのだ。

*3:この四階層は、上から順に聖四文字YHVHに対応する。つまりアツィルトが「ヨッド」でアッシャーが「小さいへー」に対応するという事である。

*4:実のところ、特にブリアーから下の領域については其れなりに相関があるので綺麗に階層を切り分ける事は難しい。同様の理由で、生命の木と四界の対応についてもココで示したモノ以外にも幾つか説はあるが、大雑把な切り分け方としてはココで示したものは間違っていないと思う。

*5:同時に、両方とも開発工程の戻りを殆ど考慮して居ない為、下の階層からの影響が上の階層に強く影響するようなダイナミックな問題を取り扱うには向かないモデルだという事もきちんと勉強すれば判るだろう。

*6:コンピュータの勉強をしている魔術志願者はカバラの勉強と思って初級シスアドの試験勉強をしてみるのも悪くないかもしれない。うじゅぱ老師の『魔術は英語の家庭教師』に書いてあったように、参考になる部分は多い。それに資格取得の為の本なら魔術本と違って通勤電車の中でも家族の前でも正々堂々と気軽に読める、というのも大きな利点だ。