Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

_Modern_Magick_(Third_Edition)_ by Donald Michael Kraig

Modern Magick: Twelve Lessons in the High Magickal Arts

Modern Magick: Twelve Lessons in the High Magickal Arts

初版が刊行された1988年以来、幅広い意味でのGD系魔術の入門書としては定番中の定番とも言えるベストセラー*1の新版。
旧版(第2版)は、魔術の基礎訓練から肉体訓練*2、召喚魔術、護符魔術、性魔術までバランス良く幅広く扱っている*3が、いい加減な記述でお茶を濁すことなく最低限実践に必要なことを押さえている為、日本の魔術入門書では考えられないような600ページもの大著であった。*4
では、新版になってどこが変わったのかというと・・・

  1. 薄くなった:600ページが528ページに。
  2. 判型がデカくなった:でかあぁぁぁいッ!説明不要ッ・・・いや必要!コラムが多数挿入されたのに加えて従来の11章に加えて12章が新設された(12章については後述)お陰で内容が増え、Two Columnのレイアウトになった為、旧版より重くて持ちにくくなった。旧版は電車の中でも筋トレも兼ねて読む事がかろうじてできたが、新版はまず無理。
  3. 2.5次元の萌えキャラが登場:表紙で五芒星を描いている3Dデータのおねーちゃんがマスコット・キャラ的に文中のイラストにも登場。カバラ十字とかサインの動作とか体操の図において、ファッション・モデルっぽくない妙にリアルな体型を披露している*5。3Dキャラを使って図版が判りやすくなったかと言えば・・・それについてはかなり微妙な気がする。*6
  4. 12章でNLP神経言語プログラミング;Neuro-Linguistic Programing)とChaos MagicとPostmodern (Magick)について言及:旧版を持っている魔術マニアにとってはここが一番のポイントであろう。私の専門外ではあるので細かい事は良く判らないが、NLPが人間の主観を操作する為に用いられる技法という意味で魔術とは非常に近いものであるから、その成果(Time line method)を取り込んでいこうという姿勢は理解できる。Chaos Magicについては、内容としては旧版にあったQ&Aの内容に加えて追儺儀式と願望達成の儀式を例示している程度であり、それが定まったジャンルになっている現状*7では本書で取り上げるのが遅すぎる感がある。しかしNLPの応用、Chaos MagickそしてPostmodern Magick*8と続けて紹介する事で、古の象徴体系に依らずその原理のみを踏襲した新時代の魔術の登場を予感させる内容になっている。

12章の最後、著者は今までの旧版に書いていたconclusionには満足していなかった、私は間違っていた、と告白し、こう語る。

I've come to realize that there is no conclusion to the study of magick. (後略)
There is no conclusion to practice of magick. (後略)
There is no conclusion to the evolution of magick as long as children wonder why the sky is blue and as long as people want to find out what is on the other side of the mountain or the ocean , or the galaxy, or the universe. (後略) *9

この飽くなき探求心こそ、魔術の精神そのものであろう。
本書は、肉体のエクササイズ、心理学、現代思想、萌え、と20世紀以降の魔術の進歩を取り込んだ、当に"Modern Magick"の名に相応しい本と言えるだろう。その是非については色々な意見があるだろうが、現代における魔術の姿を総合的に提示する入門書は本書以外にない。
これからも著者には、10年単位くらいで最新の成果を取捨選択しながら、現代のそして未来のMagickの姿を示していって貰いたいと思う。
・・・とはいえ、もう少し持ちやすいサイズにして欲しいものだ。

*1:D.M.Kraigの著作で最初に邦訳されたのが、ベストセラーの誉れ高き本書ではなく、微妙な評判がチラホラと呟かれる_Modern_Sex_Magick_だったのは、Kraigにとっても日本の魔術ファンにとっても不幸な事だったんじゃなイカ?ある意味、日本に於ける魔術書の商業出版の現状を反映している出来事かもしれない。

*2:"Tibetian Exercise"・・・チベット体操とでも呼べば良いのだろうか・・・っていうか、はてなキーワードに登録されてるとは知らなかったよ!・・・体幹部の筋肉強化と柔軟性のトレーニングである。本書の著者によれば出典が1939年に発刊された本とのこと。何れにせよ、『西洋の伝統』ではない。

*3:穿った見方をすれば適当に各方面の良いとこ取りをしている、とも言える。その為、細部に異論がある人は結構多いのだが、出版後20年以上経った現在、「魔術初心者が最初に手に取る本」として概ね認められているのは間違いない。

*4:あの書籍版『実践魔術講座』ですら、魔術修行の解説部分の上巻が296ページ、レイアウト的にスカスカで大量の儀式文書を入れた下巻を含めても575ページである。それだけでも如何に本書の内容が盛りだくさんか判ろうというものだ。

*5:「何処が萌えキャラだ!」とお怒りの方、大変失礼致しました。アメリカの片田舎に居そうな、可愛いけど「美人過ぎる」とは言われない芋ねーちゃんですね。正直、私も某神戸新聞の「いけてない」「萌えない」あの娘より萌えません。これについては好みの問題、という事でお許しください。

*6:コミPo!で魔術書作る人っていないのかな?私も一応買ってみたけど、まだ殆ど動かしていない。センスのある人が作ればModern Magickよりももっと『萌える魔導書』が作れると思う。或いはMMDとかで魔術入門者用動画ファイルとかを作る人が出てこないかなあ・・・弄りたいけど時間がない。

*7:一部はChaosどころか形式化、あるいは形骸化された魔術になってしまっているように見える。

*8:実質、Patrick Dunnの著作の紹介ではあるが・・・

*9:本書422ページ。