Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

萌え魔術−理論と実践(実践編:後編)

聖と俗を分けるという事は、単に「神秘的・宗教的雰囲気に浸る時とそうでない時を区別する」というような生温いものではない。それは「己の命(の一部)を俗世の目的と切り離し、己の信じる聖なるものに対して捧げ一体化する」事なのである。多くの神秘体系で象徴的な死と復活が重要なイニシエーションのモチーフとして用いられるのは、俗なる部分の死と聖なるものとの一体化による復活を表しているからなのだ。
己の命の全てを捧げるのが所謂シャーマニズムである。古代の社会、そして現代でも近代文明に毒されていない地域では、シャーマンはイニシエーションにより己の全てを聖なるものに捧げる新しい人生を送るようになる*1。しかしながら、現代の社会ではシャーマンは必要とされておらず、また、誰でも成れるモノでは無い為、素人にはマジでお勧め出来ない*2
それとは異なり、己の心の一部に「魔術的人格」を作り上げそれを「聖なるもの」に捧げるのが「黄金の夜明け」などの近代魔術である*3。こちらの方は才能のあまり無いものでも社会の中で生きながら訓練によってそれなりの成果を挙げる事ができる。
どちらの方法を取るにせよ、その中心となるのは「聖なるもの」についての信仰である。人はパンのみにて生きるに非ず。理性によって世界を探求する科学者は「普遍性」を、全能の神を否定する道教は「無為自然」という証明不能な概念を信仰している。「Nothing is true. Everything is permitted.」を信条とする混沌魔術ですら「混沌」をそのシンボルとせざるを得ないのである*4
という訳で、萌えキャラを魔術的に利用しようと思ったら、己を (`・ω・´)シャキーンとさせるような『信仰』に基づいた神話体系の中に萌えキャラを組み込まなければならない。
一番やりやすいのは、カバラの生命の木などの既存の魔術の象徴体系の中にアニメや漫画などのキャラクターを組み込んでしまう事である*5万物照応の理論*6に基づき、キャラクターをある神格の化身または象徴として扱うのである。
ある象徴体系に別の宗教や象徴体系の神々を組み込む場合、最も大変なのがその神々の性格を知る為の神話やエピソードを収集・分析する事なのだが、漫画やアニメのキャラはファンであれば膨大なエピソードを心の中に貯め込んでいるのでその点の苦労は全く無い。そしてそのキャラが象徴的に持つアイテムなども付随した象徴として組み込む事も可能だ。また更なる応用として、萌えキャラ自身やそれを象徴するシンボルをヒエログリフのような呪術的絵文字として使用するという事も考えられる。護符魔術などには比較的簡単に応用可能であろう。
そして様々な儀式的動作により魔術を行う場合の意識と通常の意識状態をきちんと切り分ける事が出来れば、魔術的象徴体系内で扱う萌えキャラと通常の萌えキャラを切り分ける事が可能である*7。多少の制限はあるにしろ、聖/俗両方において効果的に萌える事ができるだろう。
また、ある種の萌え信仰の持ち主にとっては己の愛する萌えキャラを他の神話の存在と同一視する事には抵抗があるかもしれない。そういう人は、古代エジプト神話が都市国家間の権力抗争を反映して何度も編纂され直したように、萌えキャラを中心に据えた独自の神話体系を編成する必要がある*8。しかしそれは魔術中級者以上の作業*9なのでここでは言及しない。
最後に断っておくが、私は自分の猫萌えとオタク趣味を正当化したくて無理矢理こんな事を書いている訳では決してない*10!!!萌えとは、萌え文化の中で育った日本の魔術関係者達が世界の魔術師達をリードできる『唯一』の要素であるだけでなく、混迷と戦乱に喘ぐ世界を平和に導く鍵でもあるからなのだ*11ジョン・レノンも歌っているじゃないか!「Love(萌え) is the answer.」*12ってね。
(「萌え魔術」、了)

*1:シャーマニズム」(上)(下)、M.エリアーデ著、筑摩学術文庫。この本に書かれているように、シャーマンとは只の精神病でもなければ現代の恐山のイタコのような見せ物でもない。並はずれた知力体力を発揮しながら霊感と決断力で部族の運命を担うリーダーとなるべく選別され教育を受けた者なのである。

*2:現代でも宗教的な「招命」を受ける人は居るが、私のような俗人が真似してできるものではない。破滅型の生活を真似したところで誰でもジミ・ヘンドリックスジャニス・ジョップリンに成れる訳ではないのと同じだ。

*3:密教などは己の命の殆ど全てを捧げる筈だが・・・○○山の偉いお坊さんはズラをカブってベンツで花街に通うとか聞きました。

*4:ちょっと前に某混沌魔術結社から追い出された「500年に一度の天才」(藁)の魔術師さんの文章は、何だか「混沌様」を拝む新興宗教の信者みたいで微笑ましかったです。世界が混沌であるが故に一人一人が独自の神話体系を自由に構築できるのが混沌魔術の醍醐味なのに、肝心のメインディッシュが貧弱なのがツボでした。

*5:先に挙げた萌えキャラに赤いローブを着せる方法はクロウリー魔術の象徴体系への組み込み例である。

*6:万物照応の理論は非常に便利な方便であるが、あくまでも方便に過ぎない。それを認識しつつコジツケを上手く出来る人は魔術的センスがある人と言って良い。

*7:当然、魔術的象徴は通常の遊びで使ってはならない。「魔術道具を魔術以外に使ってはいけない」とは良く言われる事であるが、それは意識エネルギーを漏らさない為、そして聖なる回路における正のフィードバックを強化する為なのだ。

*8:万物照応を逆手に取って萌えキャラを主神とし他の神話の存在をその化身とする、等々。

*9:既に米国などではポケモンキャラの魔術的利用が行われているそうである。「魔術師⊆オタク」の式を定理と言っても良いかもしれない。

*10:嘘くせー(w

*11:本田透しろはた氏の『電波男』(http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4861990025/)は喪男を正しい萌え信仰に導く素晴らしい啓萌書なのでマジお奨めだ。ただし20代後半以降の独身女性にとっては、その存在を根底から否定する書になりかねないので敢えてお奨めはしない。

*12:Mind Games』 by John Lennon. http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00006L3S3