Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

残酷なLOHASのテーゼ

最近『下流社会 新たな階層集団の出現 』*1という本を読んだが、それによると成人男性は大まかに『ヤングエグゼクティブ系』『ロハス系』『SPA!系』『フリーター系』の4つに分類出来るとか*2。詳細は省くが、年収とか社会的地位は兎も角としてこれら4つの中で私の趣味や考え方と最も近いのが『ロハス系』である*3
この『ロハス』即ちLOHASとは何かというと・・・はてなキーワードの該当ページによれば

Lifestyles Of Health And Sustainability。「人と地球にとって、健康で持続可能なライフスタイル」の総称

だそうな。所謂スローライフの一種?じゃあ「人と地球にとって、健康で持続可能」ってどういう事よ?
例えば、日本国民一人当たりのエネルギー消費量はアメリカ国民のそれの凡そ半分であり、アメリカ人の生活よりは日本人の方が地球に優しい生活をしている*4。ところが、中国の13億の民がもしも明日から日本人並みの生活をしたら、全世界のエネルギー消費量が約三割増となり、間違い無くエネルギー資源獲得競争の激化と石油価格の上昇に繋がるだろう。そして偏西風の風下である日本に運ばれてくる汚染物質は今よりも遙かに増えるだろう。
現在人類が資源不足や環境破壊による破滅に陥らない要因の一つは、山形浩生氏が指摘しているように*5、南北問題に代表される国家間の、或いは社会の中での階層間の経済格差・貧富の格差で有る事は否めない*6
そして、車も文明も急には止まれない。急激に止めると大惨事になりかねないのも同じだ。例えば原子炉。数年前のサハリン大地震ウラジオストックの廃原潜の原子炉を冷却している電力が止まりそうになり、オホーツク海で同時多発メルトダウンが起きそうになったのは記憶に新しい。そして社会資本やインフラなどを維持・運用する為には莫大な経済的コストの裏付けが必要なのである。
また二酸化炭素の吸収や低エネルギー・省エネルギー・新エネルギー等の技術を開発するにも莫大なコストとエネルギーが必要なのも忘れてはならない。研究開発は基本的にギャンブルであるが為に、幅広い分野にそれなりのコストを投下せねば『当たり』は期待できないのである。さらに、ただコストを投下するだけでは駄目で、複数の研究グループや分野が相互に影響・刺激し合うように知識・技術の集約の出来る環境を構築せねば研究は効率的には進まない。少なくとも現在の先進国並に資本と技術と人材が集まった環境がどうしても必要なのである。
更に、たとえ人類全体が今すぐに温室効果ガスの排出を止めたとしても、過去に排出された二酸化炭素による温暖化は以後何十年にもわたって続くのだ*7。今の『我々の』環境を維持する為には努力を怠ってはならない。
ところが、今アメリカや日本でもてはやされている流行としてのLOHASの多くは「環境に配慮しています」という格好をするだけのファッションに過ぎず、健康に、環境に良いと考られるものを売る為の宣伝文句に過ぎない*8
こういった状況を考えると「今の先進国の生活・経済・インフラを可能な限り維持して温暖化対策の研究をしつつ、現在の国毎・階層毎の貧富の差をも出来る限り『持続』していき、途上国には植民地時代の如く先進国で消費する作物の栽培のみを奨励して僅かな経済援助を行う*9」という自分勝手なシナリオが見えてくる気がするのは私だけだろうか?つまり、自分とその周囲だけが「健康で持続可能」であれば見ず知らずの赤の他人が如何に貧しさに苦しもうともそれで良い!そういうエゴイズムを環境問題への取り組みというパッケージにくるんだ偽善がLOHASなのだろうか?勿論そういう開き直りは、OKだ。綺麗事に騙される阿呆な連中を影で嘲笑いながら喰いモノにしていくのは弱肉強食という自然の理に適っている。
しかし上記のような『環境問題への取り組み』とは違う事を考えている人達も、勿論居る。
ビヨルン・ロンボルグの『環境危機を煽ってはいけない』*10は環境問題を声高に叫ぶ人達に「環境問題も大事だけど、他にもっと優先すべき課題があるのでは?」という疑問を投げかけ世界中で論争の的になった本だ。
ロンボルグはデンマーク統計学の専門家(大学の准教授)で、元々世界に冠たる環境保護テロリスト団体グリーンピースの熱心な支持者であった。彼は「地球環境が(多少は)改善されてきている」という数々の統計の嘘を暴く為にデータ解析を行なったのだが、その結果ミイラ取りがミイラになり、地球環境の改善を認めざるを得なくなった。
上記の本はかなりの大著であるのだが、彼の主張を私なりにもの凄く大雑把に要約すると以下のようになる。

  1. 地球上の資源も食料もまだ余裕がある。
  2. 二酸化炭素排出削減などの地球温暖化対策はコストが莫大な割には地球温暖化進行を食い止める効果がごく僅かしかない。
  3. 発展途上の国では公害と人口は増加するが近代化し社会が成熟した国では公害は減り人口爆発もなくなる*11。また、環境問題への本格的な取り組みも近代化後に可能になる。
  4. よって地球温暖化対策などの環境保護の為のコストを出来る限り今貧困に喘いでいる途上国への援助と技術革新に向け、それらの国を出来るだけダメージの少ないやり方で近代化していくべきである。
  5. 科学技術の進歩とグローバリゼーション*12は、害は確かにあったが全体として人類を良い方向に進めている。今までの人類の歩みを認め、未来に希望を持とう。

ロンボルグの本は世界各国の環境問題の関係者から多数の非難を浴びたが、細かい事実関係の間違いを除けば彼の結論は未だに論破されていない。そして2004年にロンボルグは各分野の一流の専門家や環境保護団体の代表者を集め再度経済問題や環境問題について討議し、その結果を最新の著作*13にまとめたが、基本的に『地球環境危機をあおってはいけない』を踏襲する結論が出たのであった。
勿論ロンボルグの本が本当に正しいかどうかは誰にも判らない。だが、思い込みを排除し情報を集め物事を色々な角度から分析する事でより幅広い人達の賛同を得られる説得力のある見識を得る、という地道だが意義のある作業をロンボルグが可能な範囲で行った事は確かだろう。
ところで霊的進化とやらを目指している筈のオカルティスト達は環境問題に対してはどうかというと・・・地球環境について真剣に考えた結果アーリア人だけによる持続可能な社会を目指したナチス・ドイツとか、同様に信者だけによる持続可能な社会を目指したオウム真理教とか、問題を狭い視野で単純に解決しようとして結局自分勝手な虐殺に走る連中ばかり。元々知性の欠片も無い脳足りんな連中がオカルトとか魔術になんぞハマるのだから当然と言えば当然だろう。
古代エジプトメソポタミアにおいて魔術や占星術が王者の学問であったのは、国家の運営という多様な物事が絡み合った課題に対して、万物照応という統合的なフレームを利用して問題解決を見いだせる人間を育成する為の綜合の学であったからなのだが・・・今では過去の栄光を誇らしげに語りつつ、実際にやるのは占いとお呪いの術だけだ。
上記の環境問題についての討議のように物事が細分化・高度化し且つ相互に複雑に絡み合っている現代社会においては『綜合の学』についての必要性は日増しに高まっているのだが、古のヘルメス学や魔術が再びその座に返り咲く事は最早あり得ないのだろう。

*1:下流社会 新たな階層集団の出現』三浦展 著、光文社新書 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334033210/

*2:少なくとも自分が上流階級に生き残れる可能性の最も高い人達=ヤンエグ系ではない事だけは良く判った。

*3:駄目人間でオタク趣味もあるので『SPA!系』にもかなり親近感がある。というか無職だったら『フリーター系』そのものかも・・・この本は元々マーケティングリサーチの結果をまとめた本なのだが、『オタク』の意味合いがちょっと違うような・・・私にとって『真のオタク』とは知識欲・蒐集欲の固まりのような偏執的かつエネルギッシュな人間なのであって怠け者は単に怠け者でしかないのだが、この本では「オタク=自分の殻に籠もるだけの怠惰な人間」的意味で使われている気がする。

*4:http://www.tepco.co.jp/custom/LapLearn/world/ecs02-j.html

*5:http://cruel.org/cut/cut199901.html

*6:例えば、こちらのページで先進国と後進国のエネルギー消費の差を見ると歴然である。http://safety-info.nifs.ac.jp/mirai-ene/q-a/qa1.html

*7:http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20040913304.html

*8:参考URL:http://promotion.yahoo.co.jp/charger/200602/contents04/theme04.php

*9:フェアトレードというそうだが、それだけでは途上国の社会インフラ整備と維持の為のコストが稼げないのは明白だ。

*10:http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163650806/

*11:ただし、日本に於いては中国という近代化に莫大な時間とコストのかかる国家の影響をモロに受けるという深刻な問題がある。これについては切込隊長の本が判り易い。http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166604694/

*12:現在のそれが歪んでいることは明らかだが、一方で貧困の解消という明確な効果を挙げていることは世界銀行も渋々認めている。http://cruel.org/economist/poverty/ravallion.html

*13:http://cruel.org/cut/cut200501.html