Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

『インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門』白田秀彰著、ソフトバンク新書*3

情報時代の法律と著作権についての研究の第一人者がHotwired上にWeb連載した文章をまとめたもの。法律についての国毎の基本的考え方の違いから説明してくれるので非常に判り易いのだが・・・日本では、

  • 一度決まった法律は、それを覆す法律が出ない限り変更できない。(アメリカなどでは裁判所で法律を変更する判決が出せる。)
  • 法律を作ったり変えたり、決まる事を阻止したりするには、国会議員を動かすしか方法がない。

であるという、一見絶望的な話*1が話が第1章の終わりの方で早々と出てきてしまう。この時点で「小学生並みの偽堀江メールで紛糾する今の国会ではインターネット時代の法律なんか作れっこないよ!」と叫んでこの本を放り出してしまいたくなるが、気を取り直して更に読み進めてみよう。
その後の第2章の権利の話および第3章のこれからの法と社会の話と、日本の現状を考えるとやっぱり絶望的な気分にならざるを得ない話*2が続くが、非常に判り易く整理されているので暗闇の中にも何となく今後目指すべき方向性が垣間見えてくる。
終章で著者は、ネットワーク社会の為の法を成立させうる政治回路を実装する為の条件として以下のように述べている。

政治的に行動できる人が、責任ある同一性を持った状態(顕名あるいは一貫した変名)で、ネットワークにおいて活動することであり、かつ、私たち一般の人々が、そうした政治的に行動しうる人々をちゃかしたり馬鹿にしたりせず、その主張と活動の当否を理性的に評価することである。*3

この辺りは以前にレヴューした本にも書かれている関係性を引き受けることにも繋がる話である。勿論著者は、政治的行動をする人を茶化すどころか足を引っ張るのが大好きな人達ばかりの日本のネット界の状況は充分認識している。それでも敢えて筆者は、下記のようにあとがきに書いている。

最近、私は社会構造が大きく変わりつつあることを感じます。混沌の時代には、私たちの意志と目標が新しい秩序を生み出していくのだと信じています。*4

本書は法律の考え方を非常に基本的なところから丁寧に説明してくれるので、ネットワークのみならず、我々を巡る法と慣習と政治を考える上で極めて判り易い入門書である。

9.志願者は自らの意志が、他者に対してごくわずかなりとも働きかけることがあればすぐそれに気づかなくてはいけない。横になった姿勢の方が座っているより、あるいは立っているよりもよろしい。その方が重力の抵抗にあまり逆らわないから。ただし志願者はまず第一に一番近くにあって最も強い力に対して、義務を果たさねばならない。例えば友人に挨拶するために起きるとか。*5

クロウリーの『NVの書』を真面目に検討するならば、我々を常に拘束すると同時に、それを通して他者に働きかけられ、時には物理的な暴力すら生じかねない慣習と法律と政治について考慮せざるをえない。『法の書』における『王』達のあり方は、中世ゲルマン人の「人民集会裁判」の構成員たる、武力を持ち独立した自由人達*6への原点回帰に他ならないのだ。絶対的秩序の無い世界では個々の力を上手く調和させる事によってのみ秩序が得られる。政治とはその力と力のせめぎ合いを上手に利用する事である。そして身の回りの諸力を制する事の出来ない者は魔術師として失格なのだ。
最後に魔術も含めた日本のオカルトの界の住人の政治意識について私見を述べさせていただく。最近大きな裁判が終わったオウムのように、自分たちの信じるグルが選挙に出れば無批判に滑稽な仮面を被って応援し、挙げ句に選挙に落ちたグルの逆恨みを鵜呑みにしてテロリストになるような連中は勿論論外である。しかしそれ以外の人達の多くも、実の所その論外の連中と大差ないと正直思う。彼・彼女らは、この本で記述されているネットワーカー達以上に政治について主体的に考える事を忌避する一方で、心の底では信じられる何かを強く求めているので、何かのきっかけでカリスマが登場すれば、簡単にソッチの方向に転がり落ちて行くだろう。公安調査庁と警察はしっかり見張っておくように。*7

*1:2ちゃんでCDの輸入権の話とかPSE法の話とか見て署名メールを送ったりしたこともあるけど、ああいう法案がらみの話は結局国会議員がどれだけ動くかどうかで決まる、という事を幾度となく実感させられた。

*2:第3章のポリシーロンダリングの話なんかは、国連の決定を無造作に受け入れがちな日本の外交によくある話だ。

*3:本書p185-186。話は変わるけど、2ちゃんのスレで論争が起きた時に「俺はスレ立て人だから俺の意見に従え」とか「俺はこのスレッドの元祖のスレ立て人だから言う事を聞いてくれ」だとか仰る人が出てきてはスルーされる事が時々ある。折角の善意が無駄になるのは勿体ないので、そういう事を言いたい人はスレ立て時からトリップ使って本人である事を証明する事をしておいた方が良いと思う。それと個人の掲示板と違って、2ちゃんには運営じゃないと削除権限がないからスレ立て人というだけでは力の裏付けが無い。スレ立て人が敬われるような状況にならないとトリップ付きで名乗り出ても同じようにスルーされる可能性が高い。水戸黄門と一緒で名乗り出るタイミングは重要だ。

*4:本書p211。

*5:アレイスター・クロウリー著『法の書』国書刊行会(1983)、p195。

*6:本書p72-76。

*7:オウム事件の記憶も冷めぬ頃に「偉いサンにコネがあるから捕まらない」「偉いサン達の子息を沢山虜にして日本を支配してやる」と豪語して妙なキノコを売ってた団体がありましたねえ・・・。