『ニーチェ入門』竹田青嗣著:ちくま新書 *1
非常に丁寧かつ無理なくニーチェの思想を現代的に解釈する本。amazonのレビューにもあったように、ある意味真っ当過ぎて面白くないが、それは現代社会にニーチェの考え方が浸透している事の証とも言えるかもしれない。
私がニーチェを読んで何となく思ったことが非常に簡潔かつ明解に言語化されていて、正直感銘を受けた。ニーチェの言説の本質が己の「生」の肯定であることをこれだけ明解に示した文章は初めて読んだ。
この本質を見誤り出発点を見失ったが故に(特に日本の)ポスト・モダニストの多くはキリスト教徒と同じく過度の相対主義によって「力」を否定した挙げ句にルサンチマンの奴隷に成り下がったのだ。
ポスト・モダニズム思想は、スターリニズムやファシズムにおける「理念の絶対性」、「義の至上性」(中略)といった諸観念をよく解体した。しかし社会的な批判思想としてはニーチェが強く反対した「ルサンチマン思想」に荷担する結果になっているのだ。*2
現代日本に於いてニーチェについて何か語りたい人は真っ先に読むべき本といえるだろう。
魔術的な観点から1点指摘しておくと、この本で解説されている「ディオニュソス的」という概念は、まさしくカバラの生命の木の中心たるティファレットの天球「美=野獣=太陽=サタン=救世主」のイメージそのものである。
しかしニーチェによれば、美の本質はあくまで「生を肯定する力」にある。(中略)芸術とは「苦悩にもかかわらず」生を意欲するものであって、「苦悩」への反動から生を何らかの「幻影」で覆い隠そうとするものではありえない、と。*3
ティファレットの「美」と「獣666」のイメージが結びつかない、という人にはちょっとしたヒントになると思う。