Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

魔術修行者とヨーガ

起きてすぐにコーヒーやお茶を飲んじゃダメだぜ。
人工的な覚醒物質が体内の覚醒物質の生成を長時間抑制してしまうからね。
もしも君がカフェイン中毒者ならば、ヨーガの訓練が終わってから最初の一発をキメてくれ。
6ヶ月後にはヨーガの方が断然気持ちよくなってるさ。
(_ABRAHADABRA:_Understanding_of_Aleister_Crowley's_Thelemic_Magick_ by Rodney Orpheus*1。13-14ページより引用。拙訳。)

ハッキリ言って、西洋魔術の修行法には身体に関するエクササイズが不足している。

呼吸法や弛緩法、そして座法といった身体制御が必須であるにも関わらず、姿勢制御の為の筋肉を鍛えたり疲労や生活習慣などによる心身の歪みを矯正する手段が無い為に、座法や弛緩の訓練で長期間に渡って余計な苦労を強いられる初心者も少なくない。*2
更に魔術中級者には身体の歪みが危険を招く可能性すらある。中央の柱などのエネルギー循環系の作業を行った時に、身体の歪みがエネルギーの流れを阻害し、それが心身の不調の原因となる場合があるからだ。*3

そういった訳で、特に魔術修行の最初の弛緩法と座法の訓練に関しては、アレクサンダー・テクニックやストレッチやラジオ体操といった準備運動を訓練前に行って体をほぐしておくと効果的なのだが・・・この手のエクササイズとして評判が高く、行っている人が多くて道場や本も豊富なヨーガを行ってみるのはどうだろうか?

ところで、1980年代に出た某魔術入門書には「魔術師は、一生涯、神社に足を踏み入れてはいけない」とか「ヨーガをやっている妻とは即刻離縁しろ」などといったことが書かれて・・・いないが、W.E.バトラーの『魔法修行』に書かれていたような「異なる修行体系を混ぜてはいけない」という観点から「初心者は他のオカルト体系と接する時は注意せよ」みたいな事が書いてあった。
そのような意見が主流なのか、或いはD.フォーチュンの影響なのか、日本ではクロウリー系以外はヨーガのエクササイズと魔術修行を厳密に分けようとする魔術師が多いようだ。
しかし、何故ヨーガが駄目でストレッチやアレクサンダー・テクニックはOKなのだろうか?
魔術の初期の訓練で行うような、呼吸を意識しながら身体を観察することは、ストレッチでもウェイトトレーニングでも武道でも、どの肉体訓練体系においても重要なポイントであり外すことは出来ない。このレベルの話が駄目なら魔術修行者は他のあらゆる運動やスポーツが出来ないことになる。また、元々ストレッチはアメリカでアレンジされたハタ・ヨーガであり、基本的なポーズの多くが共通である。ストレッチがOKでハタ・ヨーガが駄目な理由は何処にあるのだろうか?
ヨーガを己の魔術体系の中に取り入れているクロウリーの『神秘主義と魔術』や『魔術−理論と実践』、或いはクロウリー魔術入門書の定番であるRodney Orpheusの『ABRAHADABRA』を読むと、直接ヨーガ的技法を取り入れているのはアーサナと呼吸法の一部、およびマントラ瞑想であることが判る。特に呼吸法は四拍呼吸の変形あるいは応用ともいえる、呼気、吸気、止気、それぞれの長さを変えていくものが主である。それ以上の技法はヨーガの修行の八段階と対応させて議論しているだけで明らかなヨーガの影響の見られる具体的技法は殆どない。
要するに、座法=アーサナの部分に多少ヨーガの影響が入ったところで魔術という体系が目指すところは全く変わらない、ということである。
よって魔術修行者が肉体を整えるため或いは魔術修行前の準備運動としてヨーガを行う場合、ヨーガの呼吸法と瞑想法の深い部分に立ち入らずハタ・ヨーガの肉体制御の部分のみを実践すれば、『異なる修行法の混同』という問題はまず避けられる。そして世間に流布するヨーガの入門書を眺めると判るように、そのレベルでも心身の健康を保つという目的には充分なのである。*4

*1:http://www.amazon.co.jp/dp/1578633265

*2:そもそも「神様が粘土から人間を作った」という西洋の伝統に「身体の(細かい)歪み」などという概念を求めるのは無いものねだりなのだろうか?

*3:魔術修行者には武術が趣味だったり気功を別途研究していたりする人が多いが、そういった人達はこの足りない部分を自主的に研究しながら補っているようだ。

*4:勿論、長期間続ける事が出来れば・・・という条件付きではあるが。