Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

サイバーパンク時代のグノーシス主義者

「現実を直視しろ。おれ達にはもう、仮想現実しかないんだ。」
漫画『ルサンチマン*1の主人公坂本タクローに、坂本を仮想現実の世界「アンリアル」に引きずり込んだ友人の越後が言う台詞である。
30歳目前でデブ・ハゲ・貧乏の3拍子が揃った2人には、誰がどう見ても適齢期の女性と恋愛が成就する可能性は極めて低い。愛が欲しければ仮想現実の世界に行くしかない。
それが彼らにとっての、逃げる事の出来ない現実だ。仮想現実にしか救いが無い、絶望しかない現実。*2
同じ仮想現実がテーマの物語でも、マトリックスの主人公ネオの場合は、マトリックスの向こうに愛してくれる現実の彼女トリニティがいた。でもタクローには仮想現実の彼女、AIの月子しか、彼を心の底から好いてくれる娘は居ない。『ルサンチマン』の登場人物の中で唯一マトモな女性として登場してきた長尾まりあ(逞しくて世話好きな姉御)には「生理的にダメ」と拒絶されているので恐らく今後も恋愛関係になることは無いだろう。*3
現実を認識すればするほど現世に望みが無くなる時、人は夢を見るしか無いのであろうか?

melma!blogの『魔術』の項に「現実に打ちのめされた人間が求めてやまないもの。」*4とあったが、建前上は、一応魔術は現実を改変する事が出来る事になっている。その真偽はさておくとして・・・。
魔術と関係の深い古代のオカルト思想、グノーシス主義では現世は悪神が創造した悪しき世界と考えられる。この悪しき世界に囚われた人間の霊魂を善の世界である光の世界へ帰還させる事がグノーシス主義者達の目的である。
一方、歴史的にグノーシス思想から大きな影響を受けたユダヤ密教カバラは、あらゆるものを神の顕現と考える。両者を比べると、この世を否定的に見るか肯定的に見るかという根本的な考え方が正反対である。

この世を否定的に見るならば、夢の実現はあの世にしかない。

上記の『ルサンチマン』或いはSFのサイバーパンク小説などでは肉体を捨てて電脳世界の中で幽霊の様に生きる者が登場する。実際、コンピュータ技術が進めばテクノロジーによる現世からの離脱は早晩不可能ではなくなるだろう。
グノーシス主義者達は死の向こうの真実の光の世界を夢見て修行を続け、そして死んでいった。しかし、テクノロジーが進歩すれば、自らの力で理想の仮想世界を作り上げ、そこに移り住む事が可能になるだろう。
グノーシス主義者達のように現世を捨て夢の中にのみ希望を求める人々は何時の時代にも居る*5。テクノロジーが彼らの夢を実現出来ると判った時、恐らく古代のグノーシス主義は形を変えて大いなる復活をとげ、新たな信者が大量発生するだろう。
しかし、そこには勿論、様々な倫理的・社会的問題が生じる。そして世の中の強者は何時もこの世に対して肯定的、即ちグノーシス主義者とは反対の思想の持ち主だ。
果たして将来、古代のグノーシス主義者の様にサイバーパンク時代のグノーシス主義者達も弾圧されるのだろうか?

それは兎も角として、ヴァーチャルリアリティによる仮想世界は生きている内に体験してみたい。*6

*1:ルサンチマン花沢健吾著、ビッグコミックスピリッツ: 小学館

*2:まあでも、坂本はまだ可能性が全く無い訳じゃない。多少美化しているとはいえアンリアル世界での彼の高校生時代の容貌はそんなに悪く無い。痩せてスキンヘッドにすれば、長尾まりあタンが相手にしてくれる位の外見には成れるだろう。でも若い頃から真正キモメンの越後は('A`)・・・だから悟りも早かったんだろうなあ。ちなみに30過ぎて毒男でこの越後にそっくりな風貌の私にも同じ事が・・・でも今更ホモに宗旨替えするのもマンドクセ('A`)なので喪男な日々は続くのだ。

*3:彼女の存在がこの作品の鍵である事は言うまでも無い事だけど・・・これからどうなるのかな?

*4:http://blog.melma.com/keyword/%CB%E2%BD%D1

*5:魔術の世界だと所謂アストラル・ジャンキーとか。今のコンピュータの世界でもネトゲ廃人とかいるよね。

*6:ルサンチマン』の世界だと高級ダッチワイフ並の予算で月子タンとハァハァ(*´Д`)出来る。コレは・・・お買い得だ!テクノロジー万歳!!!