Tweiiter of Hocuspocus_Mage The Starry Abode

ドゥルーズの哲学―生命・自然・未来のために(小泉義之著、講談社現代新書)

糞。後書きがまともそうだったから買ってみたが、じっくり読んでみたら噴飯物だった。
「差異を、多様さを認めよう。生命の力強さと変化を信じよう。」という著者の主張は判る。前世紀の構造主義ポスト構造主義者達の(それと著者のような彼らの学説を広めている人達の)努力によって、こういった考え方は少しづつスタンダードな考え方として定着しつつある。皆、薄々判って来てはいる。
しかし、それだけじゃ何の役にも立たない。現実の社会の中の問題に対する処方箋はこの本からは見えて来ない。
恐らくその理由として、肝心のこの本の文章からは今を生きている人間の苦悩や息吹は伝わって来ない事、リアリティが無い事が挙げられると思う。リアリティが無いが故に現実との接点が見えにくいのだ。それは、折角の素晴らしい博識を、陳腐な政治と科学への偏見を土台にして無理矢理上記の結論に結びつけてしまおうとする著者の姿勢に依る所が大きいと思う*1。こじつけめいた論法の為、関係性が切れてしまうのだ。『法の書』風に言うなら『Reasonの犬』といったところだろう。
今、生命科学情報科学といった様々な分野で哲学と倫理が切実に必要とされているのに、その中心には本来先頭に立つべき哲学や倫理の専門家はいない。周辺で、外野で好きな事を言っているだけに見えてしまう。そういった日本の思想界の現状を垣間見たような気になった。
もっとも著者が引用したドゥルーズの言葉は面白そうだったので、何れ機会を見てドゥルーズ自身の著作を読んでみようと思う。そういう意味ではこの本は本来の役割を果たしたと言えるのかもしれない。

*1:私にも明確に判る範囲で言えば、ローレンツの論文とポアンカレ位相空間に関する議論の結論は相当ねじ曲げて書かれているように思う。更に言えば、前提が陳腐だからSFとして読んでも面白くない。